とある人の紹介で気球にのせてもらえることになった。気球クラブに所属している人がいて、なんとタダで良いことになった!
時期については天候その他都合の良い日に急に連絡がくるという。
その日は夜勤明けであった。職場から家までは距離にして25q。時間にして40分から1時間。一睡もできない時はギリギリ
アウトの状態で家にたどり着くわけです。
そんな夜勤明けの日は何故だか居間で、何故だか寝袋に入って眠る奇妙な習慣。しかしその日、携帯に着信・・・先輩だ。
「ミウラさ〜ん、気球が飛ぶらしいよ〜」ミントのようなその爽やかさと、ヴォサノバのリズムの語り口。そんな先輩
のゆるやかな声に対して話の内容は、眠りに誘われつつあったテンションをレッドゾーンに突き上げるに十分なものであった。
クラブの人に直接の連絡先を伝えていなかったために、先輩経由で連絡をいただいたのだ。五所川原市内のデパート駐車場
に集合とのこと。
とにかく風呂に入ってメシを食い、眠気はブットンデいたものの眠気覚まし「モカ」をぐいとブチこんですぐさま五所川原へ車を走
らせる。
興奮していたので携帯の番号を伝えていなかった。集合場所のデパートは五所川原では一番でかいデパートで当然駐車場もで
かい。入り口を見渡せる場所に車を止め、メンバーの到着を待つ。
気球を乗せてくるわけであるからきっと大きなトラックかトレーラーだろう。行き交う大型車に目を凝らす。しかし工事関係者や業者
の車ばかりでなかなかそれらしき団体は現れない。待つこと数十分。
「!」現れた。
『軽トラ』が・・・・・『軽トラ』!荷台にちょこんと籐のバスケットが乗っている。一大プロジェクトチーム・・・というイメージは早くも崩さ
れた。いや、別にいいんですよ。別にね。。。。
「いやいや、思ったよがズカンかがってまってよー」軽トラと、後ろをついてきたセダンから合計5人のおじさんが降りてくる。
「へばーやるどー。オメもてづだってけろなー」
「はい、でもどうしたら?」
「この車なんぼじゃまだんだばー」
「あの、自分はどうしたら」
「風でできたんでねえがー」
思ったより話は聞いてくれない。
駐車場に巨大な気球を広げる。気球の薄さに驚く。テントの生地くらいのものなのだ。いいのか。いいのか。
巨大なバルーンと籐のバスケットを結びつける。
「スばらくぶりだなーあれ、このヒモどっちだ?どうやるんだっけが?」
「!」
「うーん、あ!こうだ!こうだ!大丈夫だ!」
いいのか。いいのか。本当に大丈夫なのか。
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組み立てられた気球に巨大な扇風機で空気を吹き込む。ある程度ふくらんだところでバーナーで熱い空気を吹き込む。
「ヴォォォォォォォォォォォォォ」
まるっきり火炎放射器である。見る見る間に巨大な布が首を持ち上げていくのがわかる。すごい。わずかに小雨が降っていたので
水を含んだ布からは大量の湯気が上がっていく。
わずかな時間に現れた巨大なバルーンにデパートの人たちは釘付けである。
「よース、いくぞー」
かくして、自分の命は5人のおじさんに託された。
バルーンいっぱいに空気を含んだ気球は、数人がかりでやっと押さえつけるまでになっていた。
「よスっ!乗れー!」
わずか半畳に満たないバスケットに大人四人が乗り込む。二人がパイロット。自分ともう一人は気球初めて。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・」
さっきまでよりわずかに長い時間バーナーがたかれる。そして・・・
「おっ・・・?」
全く音もなく、まさしくフワリと気球は飛び立った。ドンドン駐車場の車もデパートの屋上も小さくなっていく。スゴイ・・・
興奮と緊張でお腹がギュッと締め付けられるような感じ。バーナーはヴォーと一定時間たき、また休む。キンッキンッと熱い金属の
きしむ音がする。目の前の風景と、空を飛んでいる、という事実に圧倒されていく。なんとも不思議な気持ちだ。気球とはあらゆる意
味で特別な乗り物だ。なんだか神聖な気持ちになっている自分に驚くのだ。
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気球上部にはなんと穴があいており、その開き具合で上下の調整ができるようだ。もちろん飛行中は閉じた状態でバーナーの熱を
蓄えている。
上下の調整は可能だが、左右移動はまるっきり風まかせ。飛び立ったのは五所川原市内まっただ中。着陸地はどこになるのか誰に
もわからない訳である。町中に着陸するわけにはいかない。建物や電柱に引っかかってしまっては大変だ。とにかく田んぼかグラウンド
のような広いところまで風にいざなわれるまま身をまかすのだ。
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高度は上空180メートル。天候さえよければ1000メートル以上上昇することもできるという。
しかし今日は風がない。ゆっくりゆっくり五所川原市内上空を進んでいく。
「タンク交換するどっ」
2本積んであるうちの1本が底をつく頃になったようだ。
え。
もう底をつくんですか。
「・・・・・」
パイロットのおじさん達が確かに先ほどから慌ただしい。
「まあー、大丈夫だがら。タンク1本で30分くらいはもづがら。今の速度が早歩ぎで進むくれえのスピードな。今いるどっがら田んぼの
あっこまでどんくらいかかるかオメも五所川原の人ならわがるべえ。大丈夫だねえ。」
大丈夫ですか、とは別に訪ねてはいないわけだが。にもかかわらずしきりに大丈夫と繰り返すオジサン。確かに歩いてどのくらいの距
離かは計算できる場所であった。実際歩いたことのある場所なんだもの。そして、自分の出した距離と時間の計算。
『歩いて約30分=ガスがギリ』
はっきり出してしまった結論を必死を自分の中で無視しようと試みる。そのとき、二人のパイロットの小声を聞いてしまった。
「こりゃ降りれるところに降りるしかねえなぁ・・・」
みなさん気づいておりますか。人は誰も死が、そこにあるということを。ああ。
風が少しだけではあるが吹き始めた。わずかながら気球の速度も上がったように思える。いや、そう思いたい!
市中心部から少し外れ、なんと今まさしく我が職場の真上を通過しようとしているではないか。外を見ろーと電話したくなるが社会人
としてそこはクールに我慢しよう。クールな男達を乗せた気球はクールに職場上空を通過する。
高度も少し下がり、近所の子どもたちが手を振っているのがみえる。こちらも振り返すと、「今手振ってたー!!!」子どもは大騒ぎで
ある。なんと気分の良いものか。フフフ。後日わかったことだが、当日の夜勤スタッフが出勤前気球を発見し興奮していたという。まさか
自分が乗ってるとは思いもしなかったろうに。
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職場上空を通過し、住宅街を抜けるといよいよ田んぼが広がる。着陸地点だ。サポート隊のセダンが走ってくる。大きな用水路や暴風
柵など、それでも危険物になりうるものを極力避け、慎重に着陸点を選ぶ。
下降していく気球。バーナーがいっぱいにたかれ、地面に接するまで速度を極力落とす。腰をおとし、手足をめいっぱいに踏ん張る。
「いぐゾッ!!掴まれっ」
・・・・・ズドン!!!!
もの凄い衝撃で籐のコクピットが地面に叩きつけられる。再び上昇しないよう気球上部の穴を一気に開く。それでも熱い空気を蓄えた
気球は横風に流され大きく傾き、ズズズズッと地面を這い出す。コクピットごと4人はわずかにひきずられ、不意に何か大きな物が飛び
込んできた。その大きな物体により気球の動きは止まった。
物体は稲刈り後のワラの俵だった。思い切りコクピットに俵が突っ込んでいる。あまりの光景に何故か笑いがこみ上げてくる。
横倒しのコクピットから4人が這い出す。かくしてクルーは地上に帰還したのだっ!
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